朱文筵工房訪問

朝晩冷える昨今、当日は心地良い気候の下で、朱文筵工房を見学させていただくことができました。 

 

大人22名・子ども11名の大所帯でしたが、快く受け入れてくださった手塚俊明さん・戸枝恭子さんに深く感謝いたします。


朱文筵工房の外観

 

★工房のロケーションですが、想像を上回る素晴らしさでした。急峻な崖斜面が多い多摩川上流部で、川面を見下ろすことのできるなだらかな傾斜と、広葉樹の林と、その中に凛とそびえる2本の杉、そして周りの木々に溶け込む工房の建屋、どれもどれもただただ素晴らしいです。

★世田谷区から車で約1時間30分、同じ東京都とは思えないくらい、緑豊かで静かな住宅街の中にあって、本当に素敵なご自宅兼工房で、大きな窓からは紅葉の木々と下を流れる川が見え、一日ここでぼぉ~っとすごしたいと思える空間です。

★到着した瞬間から、落ち葉を踏む音の心地よさと、工房を取り巻く気の良さに心が浮き立ちました。

 

漆を掻く

 

★漆の生産量が減少しているという話をお伺いして、日本各地で伝統工芸品に指定されている工芸品があり職人さんがおられるにもかかわらず日本産の漆がほとんどないという現状に驚くとともに、漆に限らず日本の山の資源がどんどん乏しくなっていっているのではないかということも感じました。1本の木から漆を取りきる掻き方をするならば200ml、養生して掻いていくならもっと少ない、という話も初めて知ったことでした。確かに自然の木ですから掻けば掻くだけ出てくるというものではないということはわかりますがそれにしても少ない、というのが聞いた時の素直な感想でしたが、実際に搔いている様子も見せていただき、掻いた溝からじんわり染み出てきた様子を見て納得しました。漆の木と対話しながら木の表情をみて掻いていくというお話がありましたが、限りのある天然の資源、自然の恵みをありがたく「頂戴する」という心に触れられたような気がしています。

樹液採取ひとつにしても、ただ採取するだけではなく、木や土との共存と自然への感謝のある先人の知恵を教わりました。

 

 

工房の見学と

「手仕事の世界 〜漆器づくりの用具〜」の映像 

 

★完成品、道具、原料を一度に見れて、展示ではなく作業場にお邪魔させてくださった手塚さん。職人さんって素人がガヤガヤ入り込むのを嫌がりそうなイメージなんですが、昨日のようにフルオープンに開放させてくださるのはありがたかったと思います。特に、塗りをあんなに近くで見せる人はいないんじゃないでしょうか。

★午後の「手仕事の世界 〜漆器づくりの用具〜」の映像は、びっくりの連続でした。「漆器を作るための用具」を作るためにどれだけの手間暇がかかっているのか、職人さんの技のすごさに圧倒されました。今の「コスパ」「タイパ」とは正反対の世界で、1本の筆を作るのに使う毛は最初の毛の量から5%分しか残らないとか、漆を塗る刷毛は人の髪の毛を使うけれど、その刷毛にしていく過程の緻密さや、漆を濾(こ)すための紙を作るのに、楮(こうぞ)を切って皮を向いて、ゆでて川で洗って・・・想像をはるかに超える気の遠くなるような作業でした。漆器の作品一つ作るのに、どれだけの人の手が関わっているのかと思うと、漆器を見る目もまた変わりました。

★一つの器を作るために色々な材料や器具が必要なこと、これらの材料や器具を作る職人が消滅、あるいは消滅危惧の状態にあること等も教えて頂き、伝統文化を守っていくことの難しさを改めて認識することができました。私が関わっている林業は、産業という面では、かなり危うい状況にありますが、漆器業界の直面する課題は、「これを上回るきわどさの中にある」が実感です。漆の増産だけでなく、漆生産に必要な各種の道具、漆器づくりに必要となる和紙、器具などの製造技術を維持していくことが、日本の伝統文化を守るために必須の要件であると認識できたことが私にとっては大きな収穫です。

 

 

漆を塗る

今まで、何度もお会いしていたのに、漆を扱っているところには立ち会ったことがなかったので本当に貴重な機会でした。

ツルツルでトロリとして、美味しそう!?な漆。塗り広げられて気持ち良さそうなお椀。ほんの少しも漆を無駄にせずに丁寧に拭っていかれる手塚さんの姿。持つだけで温かい、お2人の漆器の秘密をまたひとつ知ることができたような気持ちでした。

★印象的だったのが、お椀に漆を塗るときの手塚さんの左手です。実に柔らかに滑らかに、刷毛の動きとまるでダンスをしているかのようで、一日中これを見ていたいなあと正直思ってしまいました。

 

 

★漆を塗っているところを見学させていただく中で粘度の高い「塗料」をムラなく塗る職人さんの「感覚」や「技術」が伝わってきました。やはり実際に見ることに意味や価値があること、子どもたちにもぜひ触れさせてあげたい技術が手先に詰まっていることを感じます。改めて貴重な機会をありがとうございました。